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__夢うつつ覚えている。
瞼の上の、ひんやりと乾いた、清潔な手の感触。
それが、決して肉親から与えられることの無かった、獄寺の「父性の記憶」全てだった。
self medication control .2
「ふざけるな! ふざけたこと言うな! 離せ! 冷静になれ!」
シャマルの拘束を逃れようと、懸命にもがく獄寺だったが、肩と腰を押さえ込まれているので、ろくろくまともに動けない。 せめて、シャマルの後ろに回ったこの腕から、その背に一撃を! と、思うのだけれども、存外、いい素材で出来ていたらしい椅子の背は、ばっちりクッションの役目を果たし、攻撃される側にもする側にも、全くのノーダメージだった。 「あんなぁ、隼人。聞くときは、一個ずつにしてくれないと…。おじさんはトシだから、理解できないぞ。」 呆れたように息をつきながら、明らかに馬鹿にしたように話すシャマルに、獄寺は、そうかよ、良く聞け! と、ばかりに、声のトーンもそのままに、律儀に繰り返した。
「ふざけるな!」 「本気だけど?」 「ふざけたこと言うな!」 「一生言うなっていうと、ツラいけどもな。今は真剣。」 「離せ!」 「暴れないなら。」 「冷静になれ!」 「お前がな。」
いちいち、即答で返してきたシャマルに、むすっ…と、膨れること三秒。
「ふざけるな! ふざけたこと言うな! 離せ! 冷静になれ!」
…見事に振り出しに戻っていた。
「…解ったよ隼人…。離してやるからさ…、暴れんなよ?」 この先も繰り返される可能性のあるループを見せ付けられ、未来の想像だけで疲れ果てた中年は、早々に匙を投げることにした。ただし、
「『十代目に誓って』暴れるなよ?」
釘を刺すことを忘れずに。 「…ぐつ…。」 一瞬詰まった獄寺だったが、十代目、と言う言葉の威力は絶大で、彼の中の天秤は、やすやすと白旗へ傾いた。 肩に入った力は、どうしても抜けないが、腕を下に下げて、戦意の無いことを証明する。 シャマルは、肩から伝わる歯軋りの振動に、僅か、不安を覚えたものの、獄寺の十代目に対する盲目的な崇拝に免じて、開放してやることにした。 「ちっ、手加減しねぇんだからなぁ…。」 自由を取り戻した獄寺は、押さえつけられていた肩やら腰やらをさすりながら、近くにあった回転椅子に腰掛けた。 二三度、座り位置を正し、居住まいが落ち着くと、獄寺は腕を組み、例の薮睨みをきかせる。 「てめぇ! シャマル! いいから、十代目との関係を清算しろ!」 「…なんだ、その言い回し…。お昼のドラマ見すぎだお前。そんなん見るくらいなら、学校に来い。」 「なっ!? オレはちゃんと、学校に来てる! 十代目のお傍に控えてる! ドラマは録画だ!」 「…結局見てるのか…。」 「なんだよ! 悪いかよ!」 「悪くはねぇんだけどもさ…。」 すっかり論点のずれた内容にも、逐一激昂する獄寺の律儀さが、アホらしいやら可愛いやら。 親愛のこもった苦笑いを浮かべるシャマルを見て、獄寺は、はっ、と顔を赤らめると 「違う! 『愛のソリティア(富士山TV 月〜金 午後1:30)』の話がしたいんじゃない! お前の節操の無さを戒める為に、ココにきたんだ!」 あわあわと本題を引っ張り出してきた。 「何を今更…。オレの節操無しは、今に始まったことじゃねぇじゃねぇか。」 「確かにそうだが! 問題は、相手が十代目ってことだ! 十代目じゃなかったら、正直、どうでもいい!」 正直、お前は正直すぎだ…。 自分定義、自分モラルを突っ走る獄寺に、思わず突っ込みそうになったが、そうした所で、暖簾に腕押し、馬耳東風。シャマルは、すんでのところで、言葉を飲み込んだ。 代わりに、どうにか獄寺が引き下がる言葉は無いものかと模索する。
__わかったわかった、今後一切、ツナちゃんとは関わらないよ。 __お前が、ツナちゃんを幸せに出来るなら、引き下がってもいい。 __じゃぁ、あきらめるか。
実際、どれも、口先だけのその場しのぎで、実を伴わない。 だが、効果があるのは、目に見えていた。 そう言っておけば、きっと、獄寺は簡単に信じる。 …その程度に強い絆は…ある確信がある。
しかし、
「わりぃ、隼人。無理。オレ、ツナちゃんが居ないとダメだわ。」
口から出ていたのは、直球。しかも剛速球。 …一瞬。
時間が止まった。
獄寺の事だから、てっきり間髪入れずに、再び激昂してくるかと思っていたシャマルは、この秒にも満たない沈黙に、直感的な不安を覚えた。 見れば、獄寺の顔から、恐ろしい速さで、するすると色が落ちていく。 青から白へ。白から更に白へ。 剛速球は、想像以上のデッドボールとなって獄寺を直撃したらしい。
焦点を失った瞳は、表情をなくしたまま、シャマルを素通りして行く。 シャマルが、その顔を覗き込もうと、背もたれから身を起こしたことにも、何の反応も無い。
__マズイ。
シャマルの脳内に、瞬時に蘇る、幼い獄寺の発作。 反射的に脈を取ろうと、椅子を蹴るように離れた瞬間。
「…! …!」
獄寺の唇が、震えるように、言葉を発した。 聞き逃すまいと、動きを止めて、耳を欹てる。
「なんで…、お前が…言うんだよ…。」
それは、どうやらそう言っているようだった。何度も、何度も繰り返し。
「隼人…?」 遠慮がちに呼びかけると、獄寺は、は、とシャボン玉が割れるように「こちら側」へ戻ってきた。 焦点を取り戻した瞳は、再び怒りを容取り、感情のまま頬を上気させる。
「頭悪ぃコトぬかしてんじゃねぇぞ! オレの方が絶対十代目が居ないとダメに決まってんじゃねぇか!オレの方が絶対! 絶対! 絶対絶対! 十代目が居ないと、本当に、絶対ダメなんだ! オレには、十代目が、本当に絶対、すんげぇ必要なんだ!」
全力で、いかに自分がツナの存在に依存しているかを力説する獄寺。 彼の主張は、まだまだ続く。 それは、先ほどの豹変について、問い正したそうにしているシャマルに、口を挟む隙を与えないほど。 マシンガントークは、息継ぎすらない。 「十代目は太陽で、月だ! オレの心臓だ! 十代目の言葉は神よりも尊い! 十代目の存在はどんな奇跡より輝かしい! 十代目が居なければ、オレはきっと、本当に死ぬ! 絶対生きてない! 十代目が全てなんだ! 十代目こそが、オレの世界なんだ! 十代目だけがオレの…オレの未来だ…!」 狂信の陶酔の中で、きっと今、彼には見えているんであろう、理想の未来を思う存分かみ締め、余韻に浸りつつ、言葉をくくった。 もはや、サイケデリック。妄想症候群。 うっとりと目を潤ませている獄寺に、シャマルは一抹の不安を覚え、まさかと思いつつ、聞いてみることにした。 「…おまえ、ソレ、ツナちゃんにも言った?」 当然だ! とばかりに、シャマルを見下すように鼻で笑う。 シャマルは、その肯定を示唆する仕草に、軽い頭痛を覚えた。 「ほんっと…、ばっかだなぁ、お前。」 「な! なんでだよ! オレは、十代目をご尊敬申し上げているし、十代目のためなら、死ねる! それを口にしてなにが悪い!」 あのなぁ…。シャマルは眉間を揉みつつ、説明に踏み出してみた。 果たして、理解してくれるのか? 「ツナちゃんはな、お前と違って、普通の中学生なんだよ。少なくとも、今まで育ってきた環境に「任侠」なんて文字はなかったわけ。それをいきなり『命、預けます!』なんていわれてみろ。どうしていいか解んなくなるに決まってるだろ。困らすなよ、好きならさ。」
そして、即答された内容は、予想されうる中で、最も最悪のものだった。
「そんなことは無い! オレは正しい! 十代目は生まれながらにして、ボスの資質を存分に持っておいでだ! オレ一人の命なんか…!」
ガッ…!!!
獄寺の言葉を、まさに 「叩き潰す」 平手がとんだ。 手加減は、多分出来なかった。と、シャマルは思う。 一瞬、頭の中が真っ赤になって、何も考えられなかった。 ほんの0.3秒。久々にキレた。 __あとは、お説教モードだ! よっく聞きやがれ、このガキが!
「おまえ! 今、最低なこと言ったぞ! 『なんか』って、言ったなぁ!? おい! そんな…そんな簡単な気持ちで、ツナちゃんにそんなコトぬかしてんのか!? ガキの我が儘も大概にしろ!! お前が言った『なんか』が、ツナちゃんにとっては、どんだけ大切か! どんだけ重いか! なんで全然解ってねーんだ!!!」
叩かれた方向に俯いたまま、獄寺は、シャマルの声を聞いていた。
スキルもキャリアもあるヒットマンの本気の平手を食らって、それでも、吹っ飛ぶことの無かった獄寺は、それなりに丈夫らしい。
__あぁ、なんだろ、耳の奥がくわくわする…。 頭の中に反響する、低い、声。言葉の意味よりも、気持ちが先に伝わってきて、リアルに獄寺の心臓を痛くさせた。 __ムカつく。 胸の奥に長年溜め込んでいた気持ちと相まって、ムカつきは、ぶくぶくと急速に膨らんで行った。 __なんで!? なんで!? どうして声から伝わってくる気持ちは…。 愛情、なんだ…。
ツナへの愛。そして、自分への愛。
恐ろしく「大切にされている」ことを痛感させられて、本当に、痛い。 言葉の中に、ちょっとだって、軽蔑とか、憐憫とかが混じっていれば、それを納得の種にして、過去を纏め上げられると思っていたのに!
__なんで!? なんで!?
「なんで、おまえがそれを言うんだ! なんで何でも解ってるみたいに言うんだ! おまえ、オレを捨てたじゃねーか! おまえが捨てたオレなんか『なんか』だよ! 『なんか』なんだよ!」
愕然。 獄寺の科白に、シャマルは、文字通り、表情をなくした。 捨てた。 彼は今、そう言った。 離れて居たって、少しは心が通い合っている。
そう信じていたシャマルには、心底、衝撃の一言だった。
幼い獄寺との別れ際。何があっただろうか。 記憶は、映像を伴って、クリアに思い出された。
その日シャマルは、うっかりドアを閉め忘れていた。
大分酔っていたし、「今日の妹」との情事で、頭は一杯だった。 「好きだよ。愛してる。」 場を盛り上げるためだけの、薄い、ぺらぺらな睦言を何度も繰り返しながら、ベッドをきしませる。 女はいい。単純に、柔らかいし気持ちがいい。暖かいし、男の本能を簡単に満たしてくれる。 特定の誰かを作れない殺し屋稼業。愛への渇望は、その最終行為のレプリカによって、なんとか潤っていた。 レプリカは、一度、原型を作ってしまえば、判を押す様に大量製造が可能だ。 所詮今日も、大量製造の一つ。
白い足の間で腰を振りながら、頭の隅で皮肉をつぶやく。 その時。
カタン。
ドアの方から、物音を聞いた気がした。が、 「まぁ、いいか。」 なんとも、気のゆるい話だが、彼はそうしか思わなかった。 ここは獄寺の城だし、そうそう不法侵入者もいないだろうと、と。 いかんせん、ここで殺されても文句は言えないだけのことはしてきたし。そんな腹上死も、オレの人生ならアリかな。なんて思っていた。
次の日。 診察のため、いつものように獄寺の部屋を訪れると、 明らかに、昨日までとは違う態度で出迎えられることになった。 「なんだ? どうした?」 いつもだったら、胸の中に飛び込んでくるはずの愛しい小動物は、今日に限って、不機嫌だった。 あ、いや、不機嫌なら不機嫌なりに、飛び込んではくるのだ。でも、こなかった。 獄寺のために広げた腕を、所在無げに宙に浮かせたまま、シャマルは、ひょ、と肩を竦めて見せる。 「ハグもキスも無し? 悲しいなぁ。」 おどけた調子のシャマルに、獄寺はいつかと同じ質問を投げかけた。 ただし、今度は、自分のつま先を見つめながら、小さな、小さな声で。 「どくたーしゃまるは…、ごくでらはやとが好きですか…?」 「当たり前だろう! 好きだよ隼人。オレは隼人が好きだよ。」 大仰な身振りでシャマルは答える。 だが、獄寺の視線は動かない。 続けて、更に小さな声で、こう、続いた。 「…愛してる…?」 本当に自信のなさそうなその声。 シャマルは、獄寺の体を抱き上げると、赤ん坊にするように、その髪を、背を優しく撫でた。 何度も。何度も。何度も。 「あぁ、愛してるよ。ちゃんと愛してる。」 その言葉に縋るように、獄寺はシャマルの首に腕を回して、きつく抱きついた。 子供特有の、熱っぽい、しっとりした頬が、シャマルの耳に張り付く。 なんて愛しい。心から思う。 自然、抱きしめる力が強くなる。 お互いの柔らかい気持ちが、十分に伝わっただろうと、思ったその時。 シャマルは、信じられない言葉を聴くことになった。
「じゃぁ、ぼくにも「妹」みたいなコトして?」
「な…なに…を?」 何を言われたのか。 真剣に数秒、理解でき無かった。 なぜ、そんなことを言ったのか、も。 「しゃまる、たくさん、好きって言ってた。愛してるって言ってた。たくさん好きで愛してると、しゃまるは、あぁいうこと、したくなるんでしょ? ぼくのこと、好きでしょ? 愛してるでしょ?」 合点がいった。 昨日の情事。鍵の掛かっていないドア。物音。 簡単に繋がったピース。 __最…悪だ…。 シャマルは、激しく後悔した。 昨日のこと。昨日のこと。昨日のこと。 一昨日のこと一週間前のこと一年前のこと、女のこと酒のこと賭け事のこと、これまでの生き方全部。 危うく、生を受けたことまで、なじりそうになった。 __オレって…本当、最低…。 子供の思考は、いい意味で純粋だ。 目の前のことを素直に受け入れる。 大人が、向日葵を黄色だと言えば「きいろ」だと言い、鴉を黒いと言ったら「くろ」だと言う。 「愛」と口にしたら、その行動は「愛情ゆえ」と映るのだ。 当然、真偽を疑ったりしない。 ただ、正しいと思う。思ってしまうのだ。 __違う! 隼人! 叫んで訴えたい。 だが、声が出ない。 今、獄寺にとって、自分の一言が絶対なのだ。 __言葉を選べオレ! 冷静にならなければ…!
なんの反応も出来ずに居るシャマルに、獄寺は否定の意思を嗅ぎ取ってか、悲しそうに眉尻を下げた。 「ごめんね…、しゃまる…。ぼく、わるいコだから、しゃまるは、ぼくのことだけ好きなんだと思ってたんだ…。」 悲しい声。 無理やりに、物分かり良く振舞おうとする健気さにシャマルは、それこそ、胸が締め付けられる思いだった。 __子供に、こんな事言わせるなんて…! 深まる自己嫌悪。 自分へ向かう愛を「分割」で考えさせてしまうなんて! 「隼人…。そうじゃない…・、オレは…。」 なんて言ったらいいのか? 今の自分は、隼人だけを愛しく思っている。これは間違いない。 肉親も居ないし、特定の誰かも居ない。 でも、この愛は…、恋愛や、愛欲にいたる愛ではなくて、子供を思う親の気持ち。肉親の愛なのだ。 それを、この状況で、どう説明したらいいのか?
「愛情の区別」を説くのは、単純に難しい。 親兄弟から注がれる、肉親の愛。 仲間との深い絆、友愛。 運命で惹かれあう、恋愛。 等々…。 更に獄寺は、これらの「実例」を、まったく目にすることも、肌で感じることも無いまま、生きてきたのだ。 つまり、今のところ、彼の身の周りで愛を体現しているのは、シャマルただ一人だということになる。 更に、前述の理由により、シャマルの表現する愛について、獄寺の中では区別がない。 そこに子供ならではの、貪欲さが拍車を掛けた。 況や「シャマルの「愛」の類は全て、自分に向いていなければ、気がすまない。」 たとえ、分割されていようとも。 「ぼくのことだけ、好きなんじゃないの、わかったから。だから、しゃまる。おんなじコト、して?」 シャマルの首に絡まる、か細い腕が、震えながら力を込めてくる。 真偽の区別が無く、愛の区別が無く、全てを欲しいと思うのなら…。 この結論に至ったことは、不思議ではない。 「違う、隼人。オレが好きなのは隼人だけだよ。だから…。」 「じゃぁ、嘘ついたの? 妹に嘘ついたの?」 「それは…。」 これを肯定してしまうと、獄寺は、その純粋さを持って、今までの自分の言葉全てを疑うだろう。 でも、だからと言って「愛に偽物がある。」なんて、教えたくない。 愛を疑って生きてほしくない、絶対。絶対に。 そこで、「大人」は少し姑息な手段を用いることにした。
「隼人が、一番だよ。誰よりも隼人が一番なんだ。」 「ほんとう!? ぼくがいちばん!?」 素直に笑顔を見せる獄寺。 もう、それだけで、大分救われた気持ちになれる。 あぁ、ちっちゃくても太陽だ。そんな風に感じた。 「いちばんだったら「妹」より、たっくさんしてくれる?」 勢い込んで瞳を輝かせる獄寺に、しかし、シャマルは、首を横に振って見せた。 「それはできないよ、隼人。」 「なんで!? どぉして!?」 再び、眉を八の字にして訴える獄寺に、大人は出来るだけ「当然」を装って口にした。
「隼人はまだ子供だから。」
なるべく使いたくない手段だった。 獄寺にとって「子供」は免罪符であり「隔離」の方策であってはならないと思っていた。 だが、この際仕方がない。 成長する過程で、きっとわかってくれるはずだ。 いつかこの城を出て、可愛い女の子と恋をするようになったら…。
しかし、獄寺は引き下がらなかった。 「じゃぁ! ごくでらはやとはおとなです! 今からおとなです!」 「大人はそんなこと言わないよ、隼人。」 ゆっくりと頭を撫でてやる。 その瞬間。 獄寺は、はっシャマルの首から手を離し、まじまじとその顔を覗き込んだ。 仔細を見つめる、まるで割れた硝子の様な瞳。
明らかに 「傷ついて」 いた。
「…しゃまるは…、「こども」のぼくが…イラナイの?」
まさか、そう理解されるとは思ってみなかった! だが、シャマルに衝撃を与えるには、十分すぎるほどの結論だった。 「なッ!? そんなことあるわけがない! ちゃんと愛してるって言ったろう!?」 「ぼくもしゃまるのこと、好きだよ? 愛してるよ? ねぇ…そのきもちに差があるってことなの?」 「差なんかない! 同じ気持ちだよ!」 「でも、こどもだと「できない」愛があるの!? おとなとこどもだと、なにが違っちゃうの?」
獄寺は、自分が思っていたよりも、語解力が高いらしい。 そして…、自分が思っていたよりも…懸命に愛を求めてるのだ。 どうにかそれに応えられるだけの、更に、「できない」理由を納得させられるだけの言葉はないものか!? 懸命に模索するも、そんな都合のいい科白が、すらすらと出るわけもなく。 「そ…れは…!」 言い淀んでいたところに、
コッ コッ
ドアを叩く、乾いた音が聞こえた。 「シモーナでございます。」 名乗る声。 木曜日午前中担当の世話係のメイドの声だった。 担当時間が細切れなのは、例の「親のエゴ」を満足させるための対策の一つ。 そして、入れ替わり立ち代りのメイドは、獄寺の苦手なものの一つだ。 途端に獄寺の表情が硬くなる。 自分を抱き上げていたシャマルの腕から、するりと絨毯に降り立つと、 「いいよ。」 入室許可を投げかけた。声はどこか、無機質で…。 ほどなく、姿を現したのは二人のメイド。 右がシモーナだ。…多分。 お仕着せの彼女たちに、区別の判断材料は少ない。 二人は同時に一礼をすると、先ず左のメイドが口を開いた。 「Drシャマル、お館様がお呼びです。どうしても今夜中に仕上げて欲しいお仕事がございますそうです。」 右のメイドは、シャマルの横を会釈で通り過ぎ、獄寺の背に、そっと手を添えて、次の予定へと促した。 「さぁ、隼人ぼっちゃまはこちらに。ピアノの先生がいらしてますよ。」 獄寺は、俯くと、メイドに促されるまま、シャマルに背を向けた。 一歩。 一歩。 一歩。 二人の間に距離が出来上がっていく。 それがあまりにも象徴的に思えて、シャマルは堪らず叫んだ。
「隼人! 明日! 明日またちゃんと話そう!」 去っていく小さな背。振り返らない銀糸の髪。
明日になったら、真っ先に抱きしめに行こう。 獄寺の一日の予定を全てキャンセルさせて、とにかくただただ、傍に居よう。 歩くときは、手をつないで、立ち止まったら、必ず額にキスをして。 腕の中にいるときは髪を梳いてやって、見上げてきたら微笑んで。 全身で、「大切なこと」を伝えよう。 絶対、絶対、そうしよう。
だが、それは出来なかった。
その日、シャマルは、今まででは絶対に有り得なかった、致命的なミスを犯したのだ。
顔を見られた。 子供だった。獄寺と同じくらいの。 殺せなかった…。
そこで、緊急に国外で身を隠すことを余儀なくされた。 「ファミリーの為に死んでくれ。」と言われなかったのは、皮肉にも殺人量で築いてきた信頼のおかげ。 逃亡中は、勿論、本国とコンタクトを取ることは許されない。 そう、「死んでくれ。」とは言われなかったが、イタリアと言う国の中の認識では、自分は死んだも同じなのだ。 一切の接触がない。なんの話も届かない。 そんな中、しかし、蛇の道は蛇。裏路地に吹く生臭い風が運ぶ、曖昧な噂だけは、耳にすることが出来た。 そこに混じっていた獄寺の噂。
確か「新天地を求めて、獄寺の城を出た。」そんな話だったはずだ。 高を括っていた。獄寺なら大丈夫だと。きっと誰かがすぐに、彼の一途さ、誠実さを見抜いて、親愛を持って接しくれるに違いない、と。 安堵すらした…。
だが現実に彼は…。独りだった…。 捨てられたと思った瞬間から、自分の価値を求めて、存在意義を求めて、日陰の暗澹を歩いてきたのだ。 「自分一つ」ではダメなのだ、と戦闘力という付加価値を身につけ、外見を飾り立て、必死に。
必死に…飢えた愛を叫んでいた。
「隼人…。おまえ…。」 頬に触れようとした手を振り払って、獄寺は叫んだ。
「『なんか』だって、十代目は捨てないで居てくれてるんだよ! 名前を呼んで、セックスして、抱きしめてくれるんだよ! オレの全部なんだ! オレの価値全部なんだよ十代目は! だから、絶対居ないとダメなんよ! ガキの思い込みでもなんとでも言ったらいいじゃねーか! 絶対必要な人を、絶対必要って言ってなにが悪い!」 強い瞳。強い、悲哀の瞳。 その射るような視線の中で、シャマルは、力を失ったように、椅子に落ちると、両膝に爪を立てて、視線を床に落とした。 「あぁ…、隼人…。」 悔恨を食い縛った口から溜息のように、その名前がこぼれる。 「隼人…。」 自分の所為なのだ。 「隼人…。」 傷つけた。 「隼人…隼人…。」 独りにした。 「隼人…隼人…隼人…。」 傍に居てやれなかった。
「はやとはやとはやとはやとはやと…!!!!」
抱きしめたかった! もっと愛してると伝えたかった! 肩車をして庭を歩いて、花の名前を一つ二つと数えたかった! 毎年の成長を、柱に壁に胸に刻んで、一緒に喜びたかった!
でも…
何も…
…何もできなかった。
何も出来ないまま、傷は傷のまま。
時間は本当に残酷だ。 もう、ここまで来てしまった。 後戻りできないところまで、辿り着いてしまったんだ…。
__愛してるよ、隼人。大切で仕方がない。でもな…だから…。
「オレはやっぱり、ツナちゃんを愛すること、譲れないよ…。」
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
…続いちゃったよ…。
も、申し訳ない…。次で終わる予定。やっとこ。
本当、ずーっと、デラとシャマルしか出てきませんね。 押し問答小説(笑) しかも、変に愛溢るるシャマル(キモーイキモーイ)
ここまで読んでくださった方、すげぇなぁと思う。読みずらいでしょう?
ごめんね…本当…才能もセンスもないんだよ…。
次こそ、次こそツナたんが出る予定。…予定。
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